第1章 解剖と生理 ~ ナースフル疾患別シリーズの看護師基礎知識 ~

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呼吸器系の構造

呼吸器系とは

  • 人の体に存在する数十兆個の細胞が働き続けるためには、呼吸によって空気から酸素を取り込み、同時に二酸化炭素を放出することが不可欠である。この、生存に絶対不可欠の呼吸に関係する器官を総称して呼吸器系という。
  • 具体的には、空気の通り道となる上気道・下気道と、ガス交換や代謝の場である肺を指す。
  • 肺は胸郭と呼ばれる入れ物の中にあり、胸郭は籠状骨格構造の骨性胸郭と、それに付随する呼吸筋で構成されている。
胸郭(骨性胸郭と呼吸筋)
呼吸に関係する器官
数字で見る呼吸

成人が平静時に行う1分間の呼吸回数は平均で16回。1回の呼吸で取り入れられる空気の量は約500ml。1日で1万l以上の空気を取り入れている。

上気道の構造

構成器官

  • 空気の通り道である上気道は、鼻腔、咽頭、喉頭で構成されている。
  • また、消化器系に属する口腔も、上気道としての役割を果たしている。
上気道(鼻腔・咽頭・喉頭)

吸気時と嚥下時の動き

  • いうまでもなく、上気道は呼吸器系で最初に空気を取り入れる器官であるが、飲食物が通過する咽頭は消化管の役割も担うなど、上気道の一部は呼吸以外の領域の仕事も共有している。上気道に入ってきた空気は気管に、飲食物は食道にと、喉頭通過時に振り分けられる。これは、吸気時と嚥下時で喉頭蓋、軟口蓋といった弁の動きが異なるからである。
吸気時・嚥下時の上気道の動き

下気道の構造

構成器官

  • 気道のうちの喉頭の先、気管および気管支を下気道という。気管支の終末部である呼吸細気管支は肺胞構造が出現しはじめるため、一般には終末細気管支までを下気道とし、呼吸細気管支はガス交換の場となる肺実質の領域として区分されることが多い。
左主気管支と右主気管支

左右の主気管支を比較すると、心臓がある側の左主気管支のほうが右主気管支より長く、分岐の角度が大きい。このため、誤飲した異物は左より短く、傾斜角度も小さい右主気管支に落ちやすい。嚥下性肺炎が右肺で生じやすいのはそのためである。

右主気管支

気管分岐

  • 気管は肺へと伸びる筋と軟骨でできた管で、食道の手前に位置する。成人の気管の長さは約 10 ㎝である。気管は肺門という肺の入り口手前、第 4 ~ 5 胸椎の高さの気管分岐部で分かれる左右の主気管支となる。気管分岐部より先を気管支という。気管支は次々と枝分かれし、約 16 回目の分岐地点で終末細気管支となる。さらに約 23 回まで分岐を繰り返し、肺胞に至る。
気道の名称と分岐

肺の構造

肺の位置

  • 呼吸器の中心となる肺は、胸部の左右に位置し、周りを肋骨で囲まれている。
  • 肺の外側は胸膜で覆われており、その内部の胸膜腔は少量の胸水で満たされている。胸水は周囲との摩擦から肺を守り、呼吸運動がスムーズにできるよう助けている。

肺の形態

  • 気管の右側にある右肺は上葉・中葉・下葉の 3 つ、左側にある左肺は上葉・下葉の2つのブロック(葉)に分けられている。
  • 右肺の上葉と中葉の裂隙を水平裂(副葉裂、マイナーフィッシャー)、左右肺の上葉と下葉の裂隙間を斜裂(主葉裂、メジャーフィッシャー)という。大きさも左右均等ではなく、左肺のほうが右肺よりやや小さい。体の正中線より左に偏位する心臓の動きを妨げないためである。
数字で見る肺

肺は人体の中でかなり大きい器官だが、ふわふわのスポンジ状で、その重さは思いのほか軽く、1 ㎏ほどである。酸素と二酸化炭素を入れ替えるガス交換のメインステージである肺胞領域には、直径 0.3 ㎜の肺胞が約 5 億個ある。

肺の内部構造

  • 肺の内部には、気管支のほかに、肺動脈と肺静脈が通っている。二酸化炭素を多く含んだ血液が心臓から送り込まれる肺動脈は、気管支に沿って走り、気管支と同じように分岐している。酸素を多く含んだ血液を肺から送り出す肺静脈は、肺動脈の間を縫うようにして心臓の左心房へとつながっている。
肺のしくみ

肺胞領域

  • 大気中の酸素が最後にたどり着くのが、肺の末梢の肺胞である。肺胞の周りには細かい血管(毛細血管)が張り巡らされており、休むことなく酸素と二酸化炭素の入れ替え作業が行われている。なお、肺胞上皮細胞には次の 2 種類があるが、全肺胞表面積の 90 %以上はⅠ型肺胞上皮細胞が占めている。

*Ⅰ型肺胞上皮細胞:ガス交換に関与
*Ⅱ型肺胞上皮細胞:界面活性物質(肺サーファクタント)を産生

肺胞の構造

肺の区域

  • 前述のように肺は肺葉で分けられているが、肺葉はさらに肺区域に分けられている。右肺は 10 区域、左肺は 8 区域に分けられる。そして、それぞれの肺区域には区域気管支と呼ばれる支配気管支が存在する。区域気管支の名称は肺区域の名称と対応しており、疾患によっては肺区域に一致した病変を示す。
肺区域

防御機能

異物を除去するための 7 つの関門

  • 気道には、外気から侵入した病原体などの異物を効率的に防御する機能がある。異物は気道に存在する 7 つの関門を突き進むにつれて徐々に排出され、肺胞にまでたどり着いたものも最終的には貧食され、除去される。
第 1 関門:鼻毛
鼻毛がフィルター役となってホコリやチリなどの大きな異物を捕らえ、濾過する。
第 2 関門:鼻腔内の粘液・線毛
杯細胞より分泌される粘液と円柱線毛上皮細胞の線毛運動により異物を温め、加湿し、粘膜に粉塵や細菌を付着させて除去する。
第 3 関門:くしゃみ反射
空気中の異物を肺に吸い込まないための防衛システムの 1 つ。鼻腔粘膜へ付着した異物の刺激が三叉神経を介して反射中枢に伝わり、くしゃみとして異物を外に吹き飛ばす。
第 4 関門:ワルダイエル咽頭輪
咽頭の入り口を取り囲むように位置し、鼻腔と口腔の両方の異物を除去する。
第 5 関門:気管支の粘液・線毛
鼻腔と同様、杯細胞より分泌される粘液と円柱線毛上皮細胞の線毛運動によって異物を除去する。粘液には異物を中和し、破壊する IgA が含まれており、局所免疫としての役割も果たす。
第 6 関門:咳嗽(がいそう)反射
くしゃみと同様、空気中の異物を肺に吸い込まないための防衛システムの 1 つ。咽頭、気道に侵入した異物の刺激が迷走神経を介して反射中枢に伝わり、咳をして異物を外へ追い出す。
第 7 関門:肺胞マクロファージ
肺胞までたどり着いた空気中のチリやホコリ(塵埃)を肺胞マクロファージ(肺胞貧食細胞)が貧食し、分解処理する。
気道の防御機能

呼吸運動

呼吸運動のしくみ

  • 呼吸運動は、横隔膜・肋間筋および呼吸補助筋の収縮・弛緩によって胸腔の体積が変化し、胸腔内圧(胸膜腔内圧)が変化することによって引き起こされる。通常の安静時呼吸では横隔膜が呼吸運動の大部分を担っているが、換気量が増大したときには外肋間筋、内肋間筋などの呼吸筋も同時に働く。
腹式呼吸と胸式呼吸

腹式呼吸は、横隔膜によって胸郭を上下に動かし、体積を増減させる呼吸である。一方、胸式呼吸は、横隔膜に肋間筋が加わり、胸郭を上下のほか、前後・左右にも動かして体積を増減させる呼吸である。実際の呼吸は、腹式呼吸だけ、胸式呼吸だけというわけではなく、2つの呼吸法を同時に行っている(胸腹式呼吸)。安静時は腹式呼吸が優勢であるが、運動時には胸式呼吸も加わる。

胸腔内圧

  • 胸腔内圧は常に陰圧で、肺に対して外向きの力として作用する。
  • その圧力は、吸気時と呼気時で次のように変化する。

*吸気時:横隔膜が収縮する→胸腔の体積が増大する→陰圧が強まる(胸腔内圧が低下する)→肺が膨らむ→吸気
*呼気時:横隔膜が元の大きさに戻ろうとして弛緩する→胸腔 の体積が縮小する→陰圧が弱まる(胸腔内圧が上昇する)→肺が元の大きさに戻ろうとしてしぼむ→呼気

胸腔内圧の変化

ガス交換

ガス交換とは

  • 私たちは、細胞の活動に必要なエネルギーを生み出すための酸素(O2)を、吸気によって肺から取り込んでいる。一方、エネルギーを生み出す過程でできる二酸化炭素(CO2)を、呼気によって肺から排出している。この空気中の酸素を取り込んで二酸化炭素を排出する呼吸こそがガス交換である。

大気の組成

  • 大気には、窒素(N2)、酸素と、ごくわずかの二酸化炭素が含まれている。酸素が占める割合は2割程度である。呼気では、酸素の消費量に相当する二酸化炭素が排出される。
外呼吸と内呼吸

肺胞内で酸素を含んだ吸気と、肺胞に接する二酸化炭素を含んだ静脈血との間で行われるガス交換を外呼吸という。また、毛細血管と組織の間で行われる細胞レベルのガス交換を内呼吸という。一般的に呼吸というときは外呼吸を指す。

大気の組成

分圧

  • 窒素、酸素、二酸化炭素が混合したガスにおいて、各成分がもつ圧を分圧といい、Pの記号で表す。単位はTor(トール=mmHg)を用いる。大気圧は760Torrで、大気中の分圧はPCO2=0Torr、PO2=160Torr、PN2=600Torrとなっている。
  • 体内の酸素、二酸化炭素の分圧は、肺胞はA、動脈はa、吸入気はI、静脈性はvといった記号を組み合わせて、次のように表す。
体内の酸素・二酸化炭素の分圧

拡散

  • 濃度の異なる分子が濃度の濃いほうから薄いほうへと濃度が均一になるまで移動する現象を拡散という。呼吸は酸素、二酸化炭素の分圧差によって生じる拡散により行われている。

ガス運搬

ガス運搬とは

  • 呼吸を行うために酸素を肺から細胞へ運び、二酸化炭素を細胞から肺へ運ぶことをガスの運搬という。ガス運搬の流れは、以下のとおりである。

①酸素の運搬
拡散(参照)によって肺胞の酸素が血管内へ移動する。酸素の大部分は赤血球中のヘモグロビンと結合して血中を運搬される。
②酸素の放出
拡散によって血管内の酸素が細胞へ移動する。
③二酸化炭素の運搬
拡散によって細胞の二酸化炭素が血管内へ移動する。二酸化炭素の大部分は赤血球内で重炭素イオン(HCO3-)に変換され、血中を運搬される。
④二酸化炭素の放出
肺胞付近までたどりついた重炭素イオンは赤血球内で水素イオン(H+)と結びついて再び二酸化炭素を解離し、拡散によって血管内から肺胞へ移動する。

血液中の酸素・炭酸ガスの運搬

ガス交換の理想と現実

  • それぞれのガス交換単位で換気と血流のバランスがとれていることが、ガス交換を正常に行うための条件となる。最も効率よくガス交換が行えるのは、すべてのガス交換単位において換気と血流の比が均等であるときである。このときの肺胞気を理想肺胞気という。
  • しかし、実際の肺では、各ガス交換単位の換気と血流の比は均等にはならない。重力の影響などにより、肺尖部と肺底部では比率が変化する。そのため、理想的なガス交換よりも若干効率は悪くなる。

pH 調節機構

血中のpH

  • 正常な血中(動脈血)のpH は、7.40 ± 0.05 の弱アルカリ性である。しかし、血中に酸が増加すると、水素イオンが増えるため pHが下がる。逆に血中に塩基が増加すると、水素イオンが減少するためpHが上がる。
  • pHが 7.35よりも酸性に傾いたり、7.45よりもアルカリ性に傾いたりすると、生命活動に支障をきたすようになる。
酸と塩基

水溶液中で水素イオンを放出(電離)するものを酸という。体内に存在する酸としては、炭酸、リン酸、乳酸、ケトン体などがあげられる。二酸化炭素が酸として扱われるのは、血中では炭酸の状態で存在するためである。一方、水溶液中で水素イオンを取り込むものを塩基という。体内に存在する代表的な塩基は、重炭酸イオンである。

水素イオンを

生体の pH 調節機構

  • 血液は、代謝によって産生される多量の酸のために、酸性に傾きがちである。
  • しかし、酸が過剰になった場合は、肺や腎臓に備わった pH 調節機構が働く。肺から揮発性酸(二酸化炭素)、腎臓から過剰分の不揮発性酸(乳酸、リン酸、ケトン体など)を捨て、血中の pH を正常値に近づけようとするのである。アルカリ性に傾きすぎた場合も、肺や腎臓がpH調節機構によりpHを正常へ戻そうと働く。
ガス交換に寄与しない気道のデッドスペース「死腔」

肺では常にガス交換が行われているが、呼吸によって取り込んだ空気のすべてが肺まで届き、ガス交換に寄与しているわけではない。1回換気量の3割程度は口腔から終末細気管支までのスペースに残り、ガス交換に寄与しないのである。
このガス交換に寄与しない空気が存在する気道の部分を「死腔(解剖学的死腔)」という。
息を吐くと死腔には酸素を消費したあとのガスが残り、息を吸うと死腔に残ったガスがまず肺に入り、次に新鮮な空気が入ってくる。
自分の吐いたガスの大部分を外に捨て、新鮮な空気を吸うことができるのは、死腔の容積よりも1回の換気量が多いためであるが、死腔の容積はさまざまな要因で変化する。
たとえば、女性より男性、若年者より高齢者、仰臥位より立位のほうが死腔の容積は一般的に大きいといわれている。

死腔