第2章 腎・泌尿器領域の主な疾患 下部尿路障害(LUTS) ~ ナースフル疾患別シリーズの看護師基礎知識 ~

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第2章腎・泌尿器領域の主な疾患
下部尿路障害(LUTS)

尿失禁

どんな疾患・病態?

  • 尿失禁とは、自分の意思と関係なく尿がもれ出るもので、それによって日常生活に支障をきたす場合をいう。
  • 腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、両者を併発した混合性尿失禁の3つに定義されるが、その他 溢流性尿失禁、機能性尿禁なども便宜上使れることがある。
  • 女性に多くみられるが、高齢者では男女ほぼ同数である。
腹圧性尿失禁
次のような腹圧が加わる動作を行ったときに、尿もれが起こりやすい。
咳やくしゃみをする
重い荷物を持つ
テニスやジョギングなどのスポーツをする
階段を下りるなど
女性の骨盤内には、膀胱、尿道、子宮などの臓器があり、それらは「骨盤底筋群」という筋肉や靭帯などでできた組織によって支えられている。その骨盤底筋群が緩むことによって、腹圧性尿失禁が起こるとされるが、尿道を閉鎖する力(尿道閉鎖圧)が低下しているものもある(図5)。
図5 腹圧性尿失禁のしくみ
骨盤底は加齢に伴って緩んでいくが、特に出産時に骨盤底筋がダメージを受けて腹圧性尿失禁になりやすい。
切迫性尿失禁
我慢できないほどの強い尿意が起こり、尿が出てしまう。次のようなときに起こることが多い。
手洗いで水を触ったとき
帰宅時に玄関の鍵を開けようとした瞬間
電車やバスに乗っているときや映画館など、すぐにトイレに行けない状況のときなど
過活動膀胱によって起こる。
溢流性尿失禁
膀胱内に多量の尿が残っているため、それ以上尿を溜めることができず、尿が常に少しずつもれる。
前立腺肥大症などで尿閉になったときなど
機能性尿失禁
排尿器官に機能的な問題はみられないが、歩行障害などによってトイレに間に合わなかったり、トイレが遠すぎる(2階に寝ていて1階のトイレに間に合わない)など。

検査・診断

  • まず問診、パッドテスト、排尿日誌、検尿などを行い、尿失禁の分類を把握する。精密検査では、尿流量測定、残尿測定、膀胱内圧測定などを行う。
問診
排尿状態(頻度、時間帯、状況など)、生活への影響、既往歴などを詳しく把握する。
パッドテスト
もれた尿量を調べる(図6)。
6 0分テスト、24時間テストがある。
排尿日誌
排尿日誌について詳しくはこちらを参照。
1日のうちの排尿の時刻、尿量、尿意、尿失禁などを記録する。
図6 60分パッドテスト
尿流量測定、残尿測定
について詳しくはこちらを参照。
残尿測定について詳しくはこちらを参照。
排尿障害の有無を調べる。
膀胱内圧測定
膀胱内圧測定について詳しくはこちらを参照。
カテーテルを用いて膀胱内圧を測定する。

腹圧性尿失禁の治療

骨盤底筋訓練
骨盤底筋の筋力をつけて、臓器が下がるのを防ぐ。また、肛門や腟を締める訓練で、症状を改善する(図7)。過活動膀胱にも有用である。
図 7 骨盤底筋訓練(例)
薬物療法
β2刺激薬:尿道括約筋の収縮を強める。
TVT手術
TVT手術についてこちらも参照。
メッシュ状のテープを腟から尿道の下に通し、尿道を支えるようにすることで、尿もれを防ぐ。
TOT手術
TOT手術についてこちらも参照。
TVT手術と原理は同様だが、TVTがテープを恥骨上の腹壁へ出すのに対して、TOTでは閉鎖孔に出すものである。

看護のポイント

尿失禁の治療を受けることが恥ずかしいと思う患者は多い。患者のプライバシーに十分注意を払うことが大切である。
骨盤底筋訓練、膀胱訓練などは、冊子やビデオなどを用いてわかりやすく説明する。

過活動膀胱

どんな疾患・病態?

  • 過活動膀胱(OAB)は、尿意切迫感(突然起こる強い尿意)が特徴の症状症候群であり、通常は頻尿と夜間頻尿を伴う(図8)。
  • 健康な人では、尿意は徐々に強まり、自分の意思である程度コントロールできるが、過活動膀胱では膀胱が過敏になり、排尿の意思がなくても膀胱が収縮し、突然尿意をもよおす。
  • 排尿回数が1日8回以上、尿意切迫感が週 1回以上ある。必ずしも切迫性尿失禁がある必要はない。
  • 過活動膀胱の原因は大きく2つに分かれる。
  • 神経性:脳血管障害、パーキンソン病、多発性硬化症などの中枢神経疾患。
  • 非神経性:加齢や下部尿路閉塞(前立腺肥大症など)に伴う膀胱機能変化など。
図8 過活動膀胱の症状

検査・診断

問診
尿意切迫感と頻尿の有無を確認する。
過活動膀胱症状質問票(OABSS、表7)がよく用いられる。
表7 過活動膀胱症状質問票(OABSS)
図9 排尿日誌
排尿日誌
患者に排尿した時刻、尿量、切迫感(あるいは尿意)の有無などを自宅で記録してもらう(図9)。
膀胱内圧測定
膀胱内圧測定について詳しくはこちらを参照。
カテーテルを用いて膀胱内圧を測定するが、過活動膀胱の診断に必須ではない。
従来より行われていたこのような検査を不要とし、症状のみから診断できるとしたのがOABSSである。

治療

薬物療法
過活動膀胱の治療の第一選択である。
主に抗コリン薬を用いる。抗コリン薬は筋肉の収縮をやわらげる作用がある。
抗コリン薬には、口の渇き、便秘などの副作用がみられる。
抗コリン薬は緑内障の患者には禁忌である。
膀胱訓練
膀胱容量を増加させる訓練。
尿意をもよおしたら、数分我慢してみる。徐々に時間を延ばしていく。
骨盤底筋訓練
骨盤底筋訓練例はこちらを参照。
骨盤底筋の筋力をつける訓練。
行動療法
排尿日誌をもとに、患者にあった指導を行う。
干渉低周波治療
骨盤の前後にあてた電極より、わずかに周波数の異なる2種類の低周波電流を流し、生じる干渉波が骨盤内の神経の活動を抑える。

看護のポイント

尿もれの不安から、水分摂取量を抑えている患者が少なくない。脱水や膀胱炎の危険があることを理解してもらう必要がある。
高齢者への抗コリン薬の投与では、副作用に十分注意する。

前立腺肥大症

どんな疾患・病態?

  • 前立腺腫が尿道周囲の移行域に生じ、それが増大して尿道を圧迫して、排尿障害が起こるようになる(図10)。
図 10  前立腺肥大症
  • 50歳以降から増加し、60歳では50%に肥大が認められる。
  • 原因は不明だが、男性ホルモン(テストステロン)の増加が一因と考えられる。

症状

  • 排尿困難、頻尿、尿意切迫感、夜間頻尿など。

検査・診断

国際前立腺症状スコア(I-PSS)
症状の程度を調べる(表8)。
QOLスコア
患者自身の満足度を調べる(表9)。
前立腺特異抗原(PSA)
前立腺癌との鑑別に必要である。
表8 国際前立腺症状スコア(I-PSS:International Prostate Symptom Score)
直腸診
直腸診について詳しくはこちらを参照。
前立腺癌との鑑別に必要である。
経直腸的超音波検査(TRUS)
前立腺の形状や容積などを調べる。また、前立腺癌との鑑別にも有用である。
尿流量測定、残尿測定
尿流量測定について詳しくはこちらを参照。
残尿測定について詳しくはこちらを参照。
膀胱内圧測定
膀胱内圧測定について詳しくはこちらを参照。
プレッシャーフロー検査(PFS)
手術の適応に有用である。
尿流量測定の際に、膀胱内圧を同時に記録し、尿道の閉塞状態を確認する。

治療

薬物療法
α遮断薬が第一選択薬であり、そのほかに植物エキス抽出薬、抗男性ホルモン薬がある。
OAB症状を合併している場合、抗コリン薬を補助的に用いることもある。
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)について詳しくはこちらを参照。
TUR-Pが手術の標準である。
前立腺が相当大きい(100ml以上など)場合は、開腹手術(恥骨後式前立腺摘除術)を行うこともある。
近年、生理食塩水で行うTUR-isも行われる。
低侵襲治療
レーザー療法:前立腺にレーザー光線を照射し、前立腺を蒸散させる(HoLAP)、または核出させる(HoLEP)。
尿道ステント:内視鏡下または透視下で、閉塞している尿道内に、ステントを留置する方法。

生活指導

飲酒は適量にする
お酒を飲みすぎると、骨盤内の血行が悪化する。
「急性尿閉」は、飲酒後に起こりやすいので注意する。
バランスのとれた食事
高脂肪・高カロリーの食事は控え、バランスのよい食事をとる。辛い食べ物や刺激物は控える。
座位を続けない
長時間座り続けると、骨盤内の血行悪化を招くので注意する
座る場合は、イスに座るようにする。あぐらや正座は、お尻に体重がかかりやすい。
その他
まず、骨盤底筋を認識する訓練(例:排尿を途中で止められれば認識できている)を行う。
骨盤底筋訓練例を行う。
風邪薬には、排尿力を抑える成分が含まれていることが多く、注意が必要である。
「夜間頻尿」に悩まされる患者が多いが、この中には、夜間水分摂取が多く、「夜間多尿」となっている場合がある。暗くなってからの水分摂取は控える。

看護のポイント

治療法は、患者のQOLをふまえて選択されるべきであり、そのため十分なインフォームドコンセントが重要である。
TUR-P、レーザー治療後に尿失禁、排尿困難などが起こる場合があることを患者に説明し、症状があらわれたら受診するよう勧める。
心血管障害を合併している患者では、いわゆる「血液サラサラ」の目的のために、眠る前や夜間覚醒時に「コップ一杯」の水を飲んでいることが多い。しかし、これで脳血管障害や血管障害が予防できたというエビデンス(科学的根拠)はなく、夜間頻尿の原因として注意が必要である。